船乗りが集まらない、一隻の古い船の話
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目次
昔々、ある豊かな港に、立派な船を持つ一人の船長がいました。
船は頑丈で、大砲も備え、どんな嵐にも耐えられそうに見えました。
しかし、不思議なことに、彼の船には新しい船乗りが全く集まらない。
それどころか、古参の船乗りたちも、一人、また一人と船を去っていきました。
船はいつも人手不足で、港からなかなか出航できません。
船長は毎日、甲板で腕を組み、溜息をついていました。
「給金も相場以上だ。食事も十分に与えている。船もこんなに頑丈なのに、一体なぜだ？」
この船長の悩みは、もしかしたら、変化の時代に組織を導く、あなたの悩みとどこか似ているかもしれません。
船長が犯していた、三つの“静かな”過ち
人知れず船を去っていく船乗りたち。
彼らは、船長の気づかないうちに、三つの「見えない重荷」を背負わされていました。
過ち①：「もっと頑丈な“オール”を配れば良い」と思っていたこと
船長は、船乗りたちの疲労を見て、より太く、より頑丈な最新式のオールを買い与えました。
「これで、もっと力強く、速く漕げるだろう」と。
しかし、船乗りたちが本当に求めていたのは、頑丈なオールではありませんでした。
彼らが求めていたのは、「そもそも、なぜこんなに力任せに漕がなければならないのか？」という問いへの答えであり、風の力を利用して進む「帆」のような、賢い働き方でした。
これは、現代のビジネスにおける**「ツールの罠」**です。最新のPCやソフトウェアを導入しても、業務プロセスそのものが非効率で、旧態依然とした精神論に満ちていては、従業員の負担は減るどころか、新しいツールを覚える負担が増えるだけなのです。
過ち②：「嵐の乗り切り方」ばかりを、熱心に教えていたこと
船長は、経験豊富な航海士でした。彼は、若い船乗りたちに、嵐の中でいかに舵を取り、いかにマストを守るか、その技術を熱心に教えました。
しかし、船乗りたちの心は、日に日に暗くなっていきました。
彼らが聞かされていたのは、常に「困難」と「試練」の話ばかり。彼らが本当に聞きたかったのは、**「なぜ、我々はこの危険な航海に出るのか？」という航海の目的であり、「嵐の向こうには、どんな素晴らしい宝島が待っているのか？」**という、胸躍る未来の物語でした。
これは、**「ビジョンの欠如」**です。
日々の厳しい業務や目標達成のプロセスばかりを共有し、その仕事がどのような社会貢献に繋がり、会社の未来をどう創るのかという大きな物語を語らなければ、人はやりがいを見失い、ただ疲弊していくだけです。
過ち③：「港にいる全員」に向けて、乗組員を募集していたこと
船長は、人手が足りないと、港の広場で大声で叫びました。
「船乗り募集！屈強な者、来たれ！給金は弾むぞ！」と。
しかし、その声は誰の心にも響きませんでした。
なぜなら、その船がどこを目指しているのか、どんな旅をしようとしているのか、全く伝わってこなかったからです。
船長が本当に探すべきだったのは、ただ腕っぷしの強い船乗りではありませんでした。
彼が探すべきだったのは、**「この船長の夢を、一緒に見たい」**と心から願ってくれる、たった一人の本当の仲間だったのです。
これは、**「採用のミスマッチ」**です。
「誰でもいいから来てくれ」というメッセージは、誰の心にも刺さりません。
自社のビジョンや価値観を明確に打ち出し、「この指とまれ！」と狼煙（のろし）を上げることで初めて、その想いに共鳴する人材が集まってくるのです。
賢者が授けた、たった一つの教え
悩む船長の前に、ある日、一人の賢者が現れ、こう告げました。
「船長よ、あなたが今すぐ作るべきは、もっと立派な“船”ではない。あなたが今すぐ語るべきは、海の向こうにある“素晴らしい世界”の物語だ。」
従業員を、そして未来の仲間を惹きつけるのは、給与や福利厚生、オフィスの綺麗さといった「船のスペック」だけではありません。
その会社がどこを目指し（ビジョン）、どのような価値を社会に提供しようとしているのか（ミッション）という、**経営者自身の「物語」**こそが、人の心を動かし、組織を一つの方向にまとめ上げる最強の力となるのです。
結論：あなたは、船長か？それとも、ただの船の管理人か？
人手不足とは、単に「人が足りない」という現象ではありません。
それは、あなたの組織が**「人々を惹きつけるだけの、魅力的で、胸躍る物語を失っている」**という、経営者自身への警告サインなのです。
この記事を読んでいるリーダーのあなたへ。
あなたは、日々の運営や売上管理に追われるだけの“船の管理人”になっていませんか？
今こそ、海図を広げ、あなたの船が目指す、素晴らしい宝島の物語を、あなたの言葉で、情熱をもって語り始める時です。
その物語にこそ、未来の仲間たちが、そして今いる乗組員たちの心が、再び集まってくるのですから。
